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椿荘日記

椿荘日記

アウトドアとマリ②

キャンプ場に到着し、場所を決めて早速テントとタープを設営します。
夫が大学時代に自転車旅行に使っていた、オールドスタイルの、キャンバス地のような三角テントを、随分大昔に使ったことがありましたけれど、こちらは重量もあり、お話にならないほど狭く浸水も心配で、設営も大変でしたが、今のドーム型のテントは、支柱を組み立て、軽いナイロンタフタの本体を広げて被せるだけの簡便さで、随分進歩したものだと思いました。
とは言え家族三人だけの人手で、タープまで組み立てるのですから、これが結構厄介で、上げ膳据え膳の葉山や箱根の滞在をつい思い浮かべて、少々意気阻喪してしまいました。
加えて、拗らせてしまった夏風邪が完治していませんので、日当たりにいるだけで眩暈がして参りまして、夫と息子にまかせ、ポプラの下の木陰で休んで、じっと作業を見ていますと、今年中学生になった息子が率先して夫を助け、テキパキと作業をこなしている様子が伺え、一昨年、やはり当地でのキャンプの際、まだまだ子供っぽく、頼りない感じだったのが、急に様変わりしたように思え、逞しささえ感じました。

お昼ご飯は、一応マリの担当でしたが、既に疲れきった状態でしたので、持参したレトルトカレーで勘弁してもらい、食後息子は水遊びに突進して行き、夫もウエットスーツを着て、早速ボードを湖面に走らせに行きました。
30代半ばから始めたこのスポーツを夫は未だに好んでいて、流石に体力的に難しいのか、波の立つ海ではもう致しませんけれど、こうして適度に風のある湖でのセーリングは楽しいらしく、いったんボードに乗り込むと一時間位は帰ってきません。
息子もライフジャケットを装着しての水遊びですので、小学校時代と違い、湖畔で監視する必要もないと判断し、早速休息を兼ねての、楽しみにしていた読書をすることに。
正面に聳える大きな柳の根方に椅子とテーブルを出して、持参した本を取り出します。

今回のお供は既に何度も読んでいて、マリの愛読書である内田百閒の「贋作我輩は猫である(夏目漱石の弟子であった百閒の、抱腹絶倒、秀逸なパロデイです)」と、同じ著者の作で「第一阿房列車(目的なく鉄道の一等車に乗り込み旅をする、百閒ならではの愉快な旅行記)、中高時代を通して、当時の親友と共に熱狂的(?)なファンだった、渋沢龍彦の「滞欧日記(70年代に旅した欧州の克明な記録。友人との待ち合わせ時間や食事など、几帳面な手で書かれていて、作家としての仕事と合わせて考えながら読むと、非常に興味深いものがあります)」の三冊と、途中の書店で購入した女性誌「FRAU(雑誌は滅多に買わないマリが珍しく連続して購入。理由は、現在連載中の仏文学者、鹿島茂氏による「悪女入門」という記事で、タイトルは手垢が付きすぎていて、余り感心致しませんけれど、内容は面白く、お勧め出来ます)を加えて、旅先の読書の容易は万全で、早速麦酒を頂きながら、とりあえず数冊を同時に拾い読みし始めました。

やはり富士五湖の中でも標高の高い西湖は涼しく、柳やポプラの梢を鳴らして吹き抜ける風は心地よく、やっと、来て良かったと思える余裕が出て参りまして、それぞれ一度ずつ休憩に帰ってきた夫と息子の相手をする以外は、余程本に没頭していたらしく(こんなにのんびりと読書は本当に久し振りなのです)ふと気が付くと、あちらこちらのタープからは、既に炭の熾きる匂いが立ちこめ、ご機嫌で帰ってきた二人は、追われる様に早速夕食のバーベキューの支度を始めました。
炭の扱いなど、もうお手の物で、マリは唯一人、冷えたビールを片手に指図するだけで、のんびりとサーブされた焼き物を頂き、後片付けも夫と息子が共同でするなど、日頃とは違う「女王様状態(笑)」にすっかり満足でした。
直ぐ近くに新しい温泉場が出来て、食後三人で、広いサイトを散歩しながら入浴の為に向かい、ふと空を見上げると満天の星空です。
お手洗いなど、施設の不備への不満も多々あるのですが、嬉しそうにはしゃぐ家族の顔を打ち眺めつつ、少々体力的に無理でも来て良かったかしらと、ふと表情も綻ぶマリでした。



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